Saturday 25 August 2012

イシヅカ・ケイジ



もう10年以上前のことになるが、毎週のように東京スタジアム(現:味の素スタジアム)に通い詰めていた時期がある。

実家から自転車で20分くらいのところにスタジアムが建設された喜びが大きかったのだろうけれども、いまから考えると、かなり暇だったのだと思う。

当時、FC東京と、ホームタウンを川崎から東京に移転したばかりの東京ヴェルディは共にJ1に所属しており、週代わりでJ1のホームゲームが開催されていた。

地元商店会や住民への地道な営業活動の甲斐あって、J2から昇格したばかりのFC東京は確実にファン層が拡大していた。

一方の東京ヴェルディは、親会社が読売新聞から日本テレビへ移管されるなど「内紛」続きで、営業活動が全くもって上手くいっていないことは、スタジアムの入場者数の差によって如実に表されていた。

しかし、昔からあまのじゃくな僕は、毎試合通っているうちに、組織だった応援で盛り上がっているFC東京よりも、かつての栄光を取り戻そうと少数で必死に応援しているヴェルディのファンに、少しずつ感情移入することが多くなっていった。

当時のヴェルディで、攻撃の中心的な役割を担っていたのがイシヅカ・ケイジだった。

京都の山城高校時代から将来を嘱望されていたが、サッカーの才能以上に騒がれていたのが、その風貌であった。

高校生にもかかわらず髪の毛をドレッド・スタイルや金髪にするなど異彩を放っていたのだ。

184センチという大きな体躯にもかかわらず、左右両足のテクニックは抜群で、日本のサッカー界では明らかに「規格外」の才能であった。

しかし、その風貌、言動などから、現役時代は常に「異端児」扱いされ続けることになる。

その後、所属チームを転々とした後、2003年に引退することになる彼が、コンスタントにゲームに出続けていたのは、2000~2001年頃だけだったと思う。

サッカー界から離れた彼は、元Jリーガーの友人とファッション・ブランドを立ち上げ、ビジネスマンとして成功を遂げていた。




先日、暑さを凌ぐために入ったコンビニの雑誌コーナーで、サッカー専門誌の表紙に彼の名前が記されてることに気づいた。

「イシヅカ・ケイジ」という名前がファッション誌に載ることは多々あるが、サッカー専門誌に載ることは、ほぼ皆無だ。

引退後のセカンド・キャリアに関するインタビュー記事をどうしても読みたくなり、いまでは立ち読みすることも少なくなったその雑誌を久しぶりに購入した。

ビジネスマンとして順風満帆に見えた彼だが、驚くべきことに、この春で会社を離れ、4人の子供と妻を連れてスペインのバルセロナに移住したという。

その理由を問われると、かつての「異端児」はこう答えた。

「一番の理由は、周りと自分の一番大事なところの考え方が、根本的に違うことに気づいてもうて、そのまま続けてられないって思うてもうたからなんや。そんな状態で自分を誤魔化して、嘘ついて生きていって、息子や娘たちが大きくなった時に、「親父、お前のやってることウソやん。ダサいな~」って言われたら、親としても人間としても終わりやろ。コソコソと人の目を気にしながら生きるんじゃなく、俺は家族、友達、誰の前でも堂々と、胸張って生きたいもん。」
 
 
 

彼の本音を記したインタビューを初めて読んで、ようやく「イシヅカ・ケイジ」という人間が、少しだけ分かったような気がした。

僕がかつて憧れたサッカー選手は、僕が想像していたよりも、はるかに「まとも」な男だった。




僕が少し前まで暮らしていた家と、彼のかつての事務所が近かったことから、街中で彼を何度か見かける機会があった。

一度、横断歩道で信号を待つ彼と隣合わせになったことから、思い切って、かつてファンであったことを伝えた。

インタビュー記事の中で、ふてぶてしそうに見えて、実は「人見知りで小心者」という表現があったとおり、少し困惑した表情を見せながらも、

「ありがとうございます」

笑みを含めて、照れながら答えてくれた彼は、繊細さと力強さを兼ね備えている人間であるように思えた。


イシヅカ・ケイジ、彼のプレーは、僕の心の中にいつまでも残り続ける。

Sunday 12 August 2012

take this walts



カナダ人俳優・監督であるサラ・ポリーのインタビュー映像や記事を目にするたび、彼女の聡明さに驚かされる。

俳優としてのキャリアは4歳からで、カナダでは知らぬ者がいないほどの有名人であるが、政治や社会問題に対して積極的に発言してきたことでも知られている。

アルツハイマーを患った老女と、その夫との関係を描いた監督デビュー作「アウェイ・フロム・ハー」に引き続く、監督第二作「テイク・ディス・ワルツ」。

トロントに住む20代の女性が、5年連れ添った夫を愛しながらも、旅先で出会った男性に惹かれ、葛藤する。

「アウェイ・フロム・ハー」のカップルは70代、「テイク・ディス・ワルツ」は20代という違いはあるにせよ、「夫婦とは何か」「長年、同じ人と連れ添って生活することとは何か」というテーマは、両作品に共通している。

物語は、分かりやすいストーリーしか描けなくなっている近年のハリウッド映画とは一線を画し、ことごとく人間の「リアルさ」を描き出す。

それは、ハリウッドからの数あるオファーに背を向け、自分が納得する作品を選び続けるサラ・ポリーという人の生き方と重なる。


物語は、少なくとも僕にとっては、思いがけない展開で終わる。

ほろ苦さが残るエンディングは、他の作品では味わえない余韻の代償だ。




http://takethiswaltz.jp/