バンクーバーのプロ・スポーツと言えば、アイス・ホッケー(カナックス)とカナディアン・フットボール(ライオンズ)であった。
北米有数の大都市でありながら、プロ・スポーツのチームが少ない理由の一つに、「スポーツは観るものではなく、するもの」という意識があるとか。
そんな街にホワイト・キャップスというサッカーのチームができ、今年から北米のメジャー・リーグ・サッカー(MLS)に加入した。
MLSと聞いて、サッカーファンの誰しもが思い浮かべるのが、デビット・ベッカム。
そのベッカムが所属するロサンジェルス・ギャラクシーが、滞在中にバンクーバーで試合をする。
そんな情報を知ってしまったら、どうやってチケットを買わずにいられますか?
という訳で、試合の一月ほど前にはチケットを購入し、意気揚々とバンクーバーに向かった。
メディアを通じて入ってくる彼の生活はセレブリティそのものだけれども、こと本業に関しては、真剣なトレーニングと体のケアを入念に行う、正真正銘のプロだと言われている。
この夏で36歳になる彼が、全盛期のキレはないにせよ、トップ・レベルのプレーヤーであり続けられる所以である。
ところが、試合の数日前に読んだ新聞に「ベッカムはバンクーバーに来ない」とある。
なんでも、前節のゲームでイエロー・カードを貰い、累積枚数によって次のゲームが出場停止になったとか。
イエロー・カードを試合終了直前に貰ったことなどから、カナダのメディアは「ベッカムはカナダに来たくないから、故意にイエロー・カードを貰ったのではないか」などと真剣に議論していた。
そんな議論まで巻き起こしてしまうベッカムは、やはり本当のスターである。
肝心の試合のレベルは、Jリーグと比べても劣っているのが一目瞭然であった。
ベッカムが、MLSのオフ・シーズン(冬)に、「ヨーロッパのクラブにローンで出してくれ」と毎年駄々をこねている理由も分かる気がする。
ところで、ホワイト・キャップスのジャージーはとにかく格好いい。
おまけに、左袖にはカナダ国旗。
試合当日は朝からジャージーを着た人々が街をうろついたりしており、バンクーバーにもサッカー文化が根付きつつあることを認識した。
スタジアムでも多くの人が着ており、僕の購買欲は頂点に。
だが、そのジャージーは1枚120ドルほど。
「どうするかなぁ」
ハーフタイム、真剣に悩みながらスタジアムの外を歩いていたら、マジックでジャージーそっくりに書いたTシャツを着た兄ちゃんがいた。
胸には手書きのアディダスのマーク、スポンサーのBell(カナダの通信会社)まで記してあった。
「ははは、それクールだね」
と声をかけたら、彼もまんざらでもなさそうだった。
彼が着ていた、恐らく10ドル程度のジャージーが、他の人が着ている、どのオーセンティック・ジャージーよりも格好良かった。
そのクールなTシャツを見たら、120ドルのジャージーは、どうでもよくなっていた。