Wednesday 15 September 2010

美学

仕事が早く終わったので、さほど混んでいない総武線に乗り、家に向かっていた。

途中、80歳前後と思われる女性が大きい荷物を抱えて乗車してきて、僕の隣に立ち、席を仕切る手すりに掴まった。

「誰か席を譲るだろう」と思っていたのだけれども、一向に立ち上がる人がいない。

もちろん僕だって、本当に疲れていたり、眠かったりするときは、席を譲れなかったりする。

けれども、その女性の前に座っている乗客、特に目の前に座っている中年男性は、東京スポーツの下世話な記事を熱心に読んでおり、疲れているようにも、席を譲れないほど身体に障害があるようにも、とてもじゃないが見えなかった。

そんな状況に、僕はいらいらし始めた。

その男性に、「席を譲られたらどうですか?」と言おうかとも思ったが、果たして、そのような行動を僕が取ることは、その老女が望んでいることだろうか、と考え逡巡してしまった。




先日、大学時代の友人たちと飲んでいたときのこと。

職場でいつも頭にくる同僚に対して、どうやって感情をコントロールするか。そんな話題になった。

「お金を貰って組織で働いている以上、気に入らない人間がいるのはしょうがない、と理解すること。その人間を反面教師にすること。それと、「あなたとは人間としてのレベルが違う」と気持ちを強く持つこと。」

僕は率直にそう答えた。

職業柄なのか、はたまた日本の文化だからなのか。本当のところはよく分からないのだけれども、今の職場で働いていて、「こうなったらお終いだ」と思うことが、よくある。

そのような人間が形成される原因を、組織のせいにすることは、割と簡単だ。

けれども、ある時に気がついた。

「組織を理由にしたら、「僕もいつかこうなる」と思ってしまう。やはり、原因は組織ではなく、個人の資質だ」と。

そんな話を友人にしたら、「イチローが、お前と似たようなことを言っていた」と教えてくれた。

http://www.nikkei.com/sports/column/article/g=96958A88889DE3E1E4E4E7EBE0E2E0EBE2EAE0E2E3E2E2E2E2E2E2E2;p=9694E0E3E3E0E0E2E2EBE0E5E6E5

イチローのことは昔から好きだったのだけれども、最近、彼の発する言葉が、自分の中でしっくりくることがよくある。

きっと、彼自身の「美学」を追求する姿に、自分を重ねているのだと思う。




さて、隣のおばあさんの話。

2駅を過ぎても誰も立ち上がらないので、僕はおばあさんに声を掛けた。

「大丈夫ですか?」

そう尋ねると、その女性は物凄く恐縮して、「大丈夫です。ありがとうございます」と頭を下げられた。

そのやり取りに気が付いたのか、一人の女性がようやく席を譲った。

「遅いよ・・・」

心の中でつぶやいた。


やっぱり、東京スポーツは、読みたくない。

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